十世紀梨(続き)
印象に残ったことの一つは、梨にさまざまな物語があることです。
たとえば「名月」という石川県の梨は、天保のころに「加賀梨」と「陽の下」をかけ合わせた品種。加賀梨は、加賀の藩主の下屋敷にあり、お殿さましか食べられなかった貴重な梨でした。
その世話をしている庭師に、石川県、今の松任市あたりに住んでいたイチザエモン(?)という人が、「3月頃に、その枝を、ミスをしたかのように屋敷の塀の外に落としてもらいたい」と頼んだのです。ちょうどその日、偶然に!イチザエモンは屋敷の外を通りがかり、「これは何だろう?」と枝を拾って家に持ち帰り、富山から手に入れた「陽の下」という品種とかけ合わせてみました。ところが1回目はうまく接ぎ木できなかった。そこで、もう一度頼む。イチザエモンはなかなか強引というか、熱心です。とうとう2度目にうまくいって、「名月」ができたというわけなのです。
イチザエモンが熱心だったわけは、農閑期に行商をしてさまざまな土地を歩きまわった。すると越中の農家が豊かな暮らしをしている。彼らはなぜ豊かなんだろうと考え、「梨だ!」と気づいたといいます。
そこで、富山から「陽の下」を分けてもらったのですが、いまいちだった。そこで、加賀の殿さまの梨をどうしても手に入れたかったらしい。
梨づくりが大々的に始まるのは江戸時代中期からだそうです。その当時の梨と、現代の梨を比較した、糖成分の違いも興味深かった。
江戸時代の梨の糖成分に占める割合は、果糖が43.7%、しょ糖18.8%、昭和20年(1945年)以降の梨は、果糖33.0%、しょ糖37.3%。果糖が10%以上減っているのに対して、しょ糖は倍以上になっています。
昔の梨は、上品でサッと消える甘みが特徴。その甘みがどんどん強くなっていき、今の梨ができあがったのです。
梨は熟していくにつれて、果糖やぶどう糖がしょ糖に転換されてしょ糖が増え、一方酸含量は減る。「完熟した梨は、糖と酸のバランスがよく、さあ今食べてくださいというとき」と田辺先生。
二十世紀梨は完熟すると、色が黄緑色から黄色になります。ところが市場では黄色い二十世紀梨は評価されなかった。そこで、未熟な、でも美しい色の二十世紀が出回っていたのです。味は重視されていませんでしたから、さまざまな梨たちが登場してきて、だんだん二十世紀の人気を奪ってしまいました。
人気挽回のために、鳥取県が打ち出したのが樹で熟させてから収穫する「樹熟」です。試食してみると、今までの二十世紀梨よりも、確かに味が濃かった。ずっとこのレベルを保つなら、個性的な味のある梨として確かなポジションを取れるかもしれません。
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