[野菜の学校](6) 仙台曲がりねぎ
今多くの農家が育てているのはF1種。在来種を自家採種して作っている農家は限られている、と講師の渡部憲明さん。貴重な在来種も用意してくださいました。▼写真は左から、在来種(渡邉採種場の圃場)、在来種(生産者の圃場)、F1種
<プロフィール>
- ネギ科ネギ属。
- 仙台市岩切の余目(あまるめ)地区が発祥の地。七北田川沿いにあり、地下水位が高いため、立ちねぎの軟白栽培ができなかった。
- 1909年(明治42年)に地区住人の永野一氏がねぎの優良品種の導入育成と軟白技術の改良を試みた。時期は確かではないが、大正時代初期に「やとい」という新しい栽培技術を確立し、それに合う品種を松本系一本太ねぎを選んだとされる。ねぎの葉鞘部分岐の形状から、茨城県の赤ねぎの血が入ったとも思われる。
- 「やとい」とは栽培中のねぎを一度抜き取り、約30度の角度を付けて寝かせ、横に倒したねぎの上から土をかける作業。
- やといをして1~3ヶ月栽培すると土のかかった部分は白くなる(軟白)。横倒しになったねぎは立ちあがろうとし軟白部の中ほどから大きく曲がる。立ち上がろうとストレスを受けるため、辛みが強く、香りよく、加熱すると甘みとコクが増して口当たりのよいねぎになる。
- 自家採種を重ねて余目(あまるめ)ねぎが成立。この栽培技術は徐々に周辺に伝わった。その後、出荷名を「余目ねぎ」から「仙台曲がりねぎ」に統一し、仙台市場のみならず東京市場へも出荷された。
- 現在、仙台市内各地で生産されているが、特に太白区長町・宮城野区岩切・若林区七郷などが代表的な産地。「仙台曲がりねぎ」の中でも、湾曲した軟白部分の外側にしわができる「余目ねぎ」は珍重されている。余目地区では生産者自ら古くから自家採種と優良系統の選抜を繰り返してきたため、この地区で栽培しないと「余目ねぎ」の特性を発揮することができない。
<栄養・効能>
- 根深ねぎは水分が91.7%、エネルギーは28kcal/100g。炭水化物7.2g中、糖質5.0g、食物繊維2.2gを含むため、加熱すると甘く感じる。
- ねぎの香りと辛みは、硫化アリルによるもの。硫化アリルは、消化酵素の分泌を盛んにして食欲を増進させたり、ビタミンB1と結合して吸収をよくする働きがある。このため豚肉や牛肉と一緒に調理すると効果的。
- 硫化アリルは新陳代謝を活発にし、疲労回復や神経の鎮静化、不眠、冷えの改善に効く。また、血液の凝固を遅らせるため、血液をサラサラにし、血液の脂質を減らすため、糖尿病、高血圧、動脈硬化の予防に有効。熱に弱く、水に溶けるため、生で食べるとよいが、貧血気味や胃が弱い人には不向き。
<基本調理法・料理例>
- 生、煮る、焼くなど、種類による特長を生かして、いろいろな料理を楽しめる。
- 煮物、鍋ものにネギを入れるが、甘みや食感を利用するだけでなく、魚や肉の臭み消しにも利用する。
- 小口切りにして冷凍しておくと、便利に使える。
- 余目ねぎの酢味噌和え、ねぎ汁、ねぎごはんなど。鍋の場合もグツグツ煮込むより、サッと煮たほうがおいしいといわれる。
曲がりねぎを作っているところは、仙台だけではありません。今まで私が出会ったのは、次の2種類。
▼庄内の曲がりねぎ
平田赤ねぎはもとは曲がりねぎでした。市場出荷するために、まっすぐに育てる方法を研究したそうです。写真は、産地近くの直売所「めんたま畑」に並んでいた曲がりねぎ。
▼宇都宮新里(にっさと)ねぎ
八百屋塾のテーマがねぎの時に、何回かお目にかかっています。「最近出てこないな。たいへんだからやめたのかしら」と思ったら、NHKの産直コーナーで取り上げられていました。品種は在来種ではないかもしれない。
■福島県郡山の阿久津曲がりねぎ
先日深谷で開かれた「ねぎサミット」を見に行った果菜里屋のよしえさんが、チラシを見せてくれました。実物にはまだ会っていない。
阿久津ねぎは在来種で、曲がりねぎの本家(?)なのだそうです。阿久津曲がりねぎの起源は1897年(明治30年)といいますから、確かに余目ねぎの1909年(明治42年)より少し古い。粘土質で作土が浅い土地なので、やはり「やとい」による栽培が行われています。「やとい」はどこから始まったかということが、「本家」はどこかということなのかもしれない。
このほかに、「一関曲がりねぎ(岩手)」「横沢曲がりねぎ(秋田)」「松本一本ねぎ(長野)」などがあります。ぜひお目にかかりたい。
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