ニューサマーオレンジ
「1820年に宮崎県で発見された」という記事を読んで、もしかして『くだもの百科』に出ているんじゃないかしら、と見てみたら、「ニューサンマー」がありました。
▼『くだもの百科』
1964年初版発行、2005年に復刻された千疋屋の初代社長齋藤義政氏の著書
その「ニューサンマー」の項は以下の通り。
◇ニューサンマー
日向小夏。淡黄色。光沢ある柔らかい中玉。果肉淡黄、舌ざわり滑らかなることみかん類第一。甘酸程良く、水分豊富。上品なる美味。晩春から初夏に出回る。宮崎県および高知県、福岡県に算す。原産は宮崎。厚い皮の内側の白い部分も、果肉といっしょに食べるよう山地では勧めているが、少々無理。
なるほど。当時のニューサンマーのアルベドは食べやすくなかったか、著者のお好みには合わなかったか、あるいはそれまでアルベドを食べる例がなかったせいなのか、わかりません。
『くだもの百科』には「原木巡礼」という章があり、齋藤さんが原木を取材なさった話が載っています。ここには「日向夏蜜柑」として出ていました。繊細なイラスト入りの記事。そのまま転載します。
- 所在 宮崎市恒久五六四番地
- 所有者 高妻仙兵衛氏宅地内
- 樹令 二百五十年
- 太さ 一抱え
- 高さ 十五尺
- 枝張り 四十尺
- 指定 昭和十年二月、文部大臣より天然記念物に指定さる
日向夏蜜柑と申しても、今時の方には通用しないで、どんな蜜柑かと思われるであろうが、ニュー・サンマー・オレンジ、といえば、すぐ、おわかりになる。まだ、私が若かりし頃は、「日向小夏」(ひゆうがこなつ)という、こいきな名前をつけて、店にならべたものだった。何年頃からか、どなたが名付親か、私はよく知らないが、何でも、二十年前、またはそれよりも、もっと前頃からになりましょうか、ニュー・サンマーというハイカラな名が、だんだんに拡まって来たものだ。英語ばやりは、何も終戦後だけの話ではない。英語名のために、何か西洋から新しく入って来た新種類の果物と思うお方もおありのことでしょうが、決して左にあらず、今をさる二百五十年の大昔に、九州は、天孫降臨の地たる日向国に、芽生えた生粋の日本生れの果物である。宮崎の駅から、約三里の郊外、田圃路を歩きながら、記念物のありかを尋ぬれば、もう少し歩いて、饅頭屋の横丁を右に曲って、せんべい屋さんの家を聞けば、直ぐにわかりますよと教えてくれた。青々とした水田を前に、生垣にめぐらされた静かな農家を訪えば快く中庭に案内されて、指さされたのがこの原木であった。座敷の奥の庭に、何やら大木の繁りの前に杖に寄りかかった老木が、新時代の浪風にさもさも疲れ切った風情で、こちらを向いて遠来の私を迎えてくれた。昭和二十三年のデラ大風に、倒されてから、こんなみじめな姿に変ってしまった。コブコブの幹、良せた梢、青空の遠く見え透く葉がくれに、あっちに一つ、こっちに一つとぶら下る蜜柑の実こそ、先祖の血を伝える大切な申し子である。淡黄の皮肌、舌ざわりの優しい初夏のおいしい果物として、将来有望の種類。もしそれ、核なしになれば日本生れの高級果物として、世に推奨されるべきものだ。
1992年に宮崎大学農学部の指導で温室での栽培が始まり、「タネなし日向夏」ができたそうです。今回いただいたのはタネありでした。
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