« 「島うり」または「島きゅうり」 | トップページ | きゅうり28種類! »

2017年9月17日 (日)

稲山先生のきゅうりなど

<在来きゅうりフェスタ>に、講師の稲山光男先生が栽培しているきゅうりを持参してくださいました。下の写真の上段と中段は稲山先生のもの、下段はプロジェクトメンバーが入手した群馬の伝統野菜「高山きゅうり」と参加した方がもって来てくださった江戸東京野菜「馬込半白きゅうり」です。
7953
▲写真のきゅうりは
上段左から [F1白いぼ] [大谷地這] [芯止]
中段左から [F1とげなし] [モーウィ] [満州]
下段左から [高山-群馬] [馬込半白-江戸東京]
稲山先生がいま栽培されているきゅうりは、新しいF1、在来きゅうりなど、さまざま。なぜ在来のきゅうりをつくり続けるのかうかがったところ、味がいい、昔から栽培している、など、農家の方と似た答が返ってきました。
 
ちゃんとうかがうべきだった、と後悔したのは、栽培されている品種のなかに、資料などが見つからないものがあったことです。「満州」と「大谷地這」については、どこかに資料があるのでしょうけれど、ざっとみたネットのなかには探すことができませんでした。あのときに聞いておけば正しいことがわかったのに、とかえすがえすも残念です。
 
藤枝國光氏(九州大学名誉教授)によると、きゅうりの原産地はインド西北部のヒマラヤ南山麓です。インドで栽培化されたのは約3000年前。日本にやってきたのは「9世紀か10世紀で、遣唐使によって仏教文化とともに中国から持ち込まれたものと思われる」のですが、その渡来ルートから大きく以下の3つに分かれます。
 
<華南型> ※藤枝國光氏による
  • 古代に日本に渡来
  • 原産地インドから東南アジアの沿海路を北上したものと推測されてきた(※青葉高氏など)が、最近の中国の園芸書は、インドのきゅうりがビルマと中印国境付近から華南へ導入され、華南型が成立したとしている
  • 青大群(晩生・大果)、地這群(暑さに強い)、半白群(早熟栽培を普及)、青節成群(施設園芸を発展)などが、華南型
<華北型> ※藤枝國光氏による
  • 幕末ごろに日本に渡来
  • 約3000年前にインドで栽培化されてまもなく、中央アジアから西アジアに広まった
  • 漢の時代にシルクロードを経て中国に導入。華北に土着し華北型(早生・夏秋栽培)が成立
  • 明治末期に導入された「シナ三尺」「北京」は関西・九州の山間地に、大正初期の「立秋」は関東地方に土着。第二次世界大戦中の「四葉」「山東」は、暖地の夏きゅうりとして普及
<シベリア型> ※青葉高氏による
  • 江戸時代に日本に渡来
  • ロシアきゅうり(アーリールシアン系)がシベリア経由で山形県酒田市付近に渡来し土着
  • 「鵜渡川原」「大町」と呼ばれる酒田きゅうりとして成立、「最上」が育成された
  • 酒田市以外にも東北・北海道の各地で栽培されている。「及部(北海道)」「糠塚(青森)」「地きゅうり(岩手)」「森合(宮城)」など
日本には華南型と華北型が、各地で同居し、その交雑によってさまざまな品種が生まれました
  • 日本海側:「聖護院(京都)」や「刈羽(新潟)」-長日系春きゅうり ※青葉高氏はこれらを「華北系の血をひく」としている
  • 関東:「芯止」「霜不知」-昭和前期
  • 九州:「平和」
▼稲山先生がお持ちくださったきゅうり
▽芯止
3692
藤枝氏は次のように解説しています
・夏型雑種群
・関東の余蒔栽培で立秋に華南型の在来種が交雑して成立したものと思われる。特性は華北型夏きゅうりに近く、立ちづくりに適する。品質がよいため、1965(昭和40)年ごろから関東で早熟や半促成栽培に適用されるようになり、いわゆる白いぼ旋風を巻き起こした
 
▽満州
3689
写真は「満州」ですが、「わが国のきゅうりの系統図(藤枝氏)」には、「満州秋」という品種があり、華北型の「四葉」「山東」と並んで、「夏節成」のもとになった品種のひとつとされます。「満州秋」と「満州」は近縁(あるいは同種?)でしょう。「満州」という名前も華北型を思わせます。
 
▽大谷地這
3698
大谷」は地名…? としたら、日本中にあります。稲山先生が勤務されていた埼玉県だけでもたくさんあって、特定できません。うかがっておくべきでした。
 
稲山先生が在来きゅうりを栽培している理由は、おいしい、食べ慣れている、ずっと作ってきた…など、みんなと同じだが、自分は遺伝資源として残すという意味もある。「そこは違うかな」とのことでした。
 
「満州秋」は、現代のきゅうり育成のプロセスで重要な存在だった「夏節成」のもとになったきゅうり。また「芯止」は、稲山先生が勝利をおさめた「白いぼ黒いぼ戦争」の品種です。きっとその思いもおありなのではないか、と拝察しています。
 
 
 

|

« 「島うり」または「島きゅうり」 | トップページ | きゅうり28種類! »

グルメ・クッキング」カテゴリの記事

」カテゴリの記事

野菜の学校」カテゴリの記事

伝統野菜・地方野菜」カテゴリの記事

野菜(果菜類)」カテゴリの記事

青果イベント」カテゴリの記事

伝統野菜プロジェクト」カテゴリの記事

コメント

草間さん、おはようございます!!
きゅうりの歴史って、壮大ですね!!瓜を品種改良してきゅうりが誕生してなんて思ってました。きゅうりの故郷がインドとは…w(°O°)wびっくりです。
はるばる海を渡って日本にやって来たんですね。満州のほうからやってきたきゅうりもあるとは!
野菜のルーツって調べると面白いですね。

投稿: 松太郎ママ | 2017年9月19日 (火) 05時06分

松太郎ママさん
今回の<在来きゅうりフェスタ>でちょっと調べただけですが、渡来したきゅうりの面影を残す在来種が、意外にたくさん残っていることがわかり、嬉しい驚きでした。
流通の都合や消費者の好みなどでやむを得ない部分もあるのでしょうけれど、お店に並んでいる品種があまりにも単純化しているのは残念です。

投稿: | 2017年9月19日 (火) 10時03分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 稲山先生のきゅうりなど:

« 「島うり」または「島きゅうり」 | トップページ | きゅうり28種類! »