「牧野野菜」が紡ぐ物語 ①潮江菜-第2話から第4話まで
■第2話「潮江菜」は「潮江かぶ」なのだろうか
宮尾登美子さんのエッセー「土佐のぞう煮」を読んで、熊澤さんはそのエッセーに出てくる「潮江かぶ」を探し続けました。たくさんの資料を見ましたが「潮江かぶ」は見あたりません。ただ「潮江」という地名がつく菜「潮江菜」の名前はよく出てきて、気になって仕方がなかったといいます。「潮江菜」って何だろう、といろいろ調べていくうちに、「潮江菜」は「潮江かぶ」と同じでなければおかしい、と考えるようになりました。しかし、証拠は見つかりません。高知新聞は、こうした熊澤さんの動きを追いかけていたそうです。そして「もうそろそろ記事にしたい」と言ってきました。熊澤さんは「潮江かぶと潮江菜が同じかどうかわからないよ」「いいでしょう」「いいことはない。そこが問題なんだ」「もう出さないと…」。なかなか意見は一致しませんでしたが、2014年12月26日にいよいよ記事が発表されることになりました。すると、なんとその3日前に、牧野富太郎博士が書いたはがきが見つかった、というメールが届きました。それは、1953年に高知の人に送ったもので、「毎度毎度いろいろお世話を焼かせますが、高知潮江で作り居る方言ウシホエカブを三株くらい新聞紙にグル巻きにして送りくだされば……」と書いてありました。そうか。潮江かぶは方言なんだ。熊澤さんは、このはがきが見つかったとき、泣きそうになったとか。「牧野博士ってギリギリのところでやってくれるよね」と熊澤さん。
■第3話「潮江菜」は宮尾登美子さんの棺に入った
2014年12月26日、高知新聞に「潮江菜が見つかる」という記事が出ました。翌日、宮尾さん宅へ連絡を入れてもらい、潮江菜を送っていいかどうか確かめたところ、「どうぞ送ってください」という返事。熊澤さんは、すぐに用意して、30日の14時-16時着便で送りました。
熊澤さんが後で聞いた話によると、「潮江菜が届いたよ」と娘さんが言うと、体の具合が悪くてベッドで寝ていた宮尾さんが「食べる」と言ったそうです。そして、亡くなりました。宮尾さんは潮江菜を食べずにこの世を去ってしまいました。そこで、集まっていた編集者たちが「棺に入れましょう」と話し合い、潮江菜は宮尾さんの棺に入りました。
■第4話「潮江菜」と板垣退助
ごく最近見つかった、1938年(昭和13年)の新聞記事で、明治時代の政治家板垣退助と「潮江かぶ-潮江菜」の意外な結びつきが明らかになりました。
板垣退助というと、昔100円札にのっていた肖像画を思い出す人もいるでしょう。板垣さんも土佐出身です。高知には大きなお屋敷があり、熊澤さんのすぐ近所だったそうです。
判読できない部分もありますが、「50年前を語る」板垣會舘座談會(五)という記事です。
板垣伯は川崎の別荘へも度々お出でになりましたが、大変潮江蕪がお好きのやうでありました。潮江蕪の本場は同地の隣田(?)ですから川崎では其所へ毎年蕪を作り良種を採って東京の御邸へ送りましたが、東京でも之を播種してよい蕪を作ったと申されて居りました。
つまり、「潮江かぶ-潮江菜」は、東京の板垣邸でも栽培されていたわけです。熊澤さんは「潮江かぶを東京へ持ち込んだ犯人はどうやら板垣退助ではないかと思ってる」、と大胆な推理をしています。
関東で「水菜」というと、今や「京みず菜」の系統ばかりになりましたが、以前は「広茎(茎広)京菜」でした。葉の形がヒイラギのように先がギザギザしていて、「潮江菜」とよく似ています。この古いタイプの関東の水菜は、いつごろどこからやってきたのか。板垣退助が持ち込んだとしたら、すご~く面白い。楽しい。
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