「牧野野菜」が紡ぐ物語 ①潮江菜-第1話「土佐のぞう煮」
■第1話「土佐のぞう煮」
1979年、高知新聞に宮尾登美子さんのエッセーが連載されました。当時22歳の熊澤さんが、その一つ「土佐のぞう煮」を読んだところから物語は始まります。このエッセーは『つむぎの糸』という単行本になりました。文庫版(新潮文庫)を入手しましたので、その部分を引用します。
……私の生家のぞう煮というのは、まず青のりを啄んだ鏡川のはぜを、夜なべにカンカンをかぶせて蒸し焼きにし、天日で干すところから始まり、次に霜がたっぷりとあたってアクのぬけたうしおえかぶが出廻ってからという段取りになる。餅は切り餅で、焼かずにそのままはぜのだし汁のなかでうしおえかぶと共に煮、碗に盛った上からかつぶしをかけるのである。こうすると汁はすぐ濁るので、私の家では一回一回汁を変え、餅と菜をあざやかにして食べる習慣だった。
私は、この「土佐のぞう煮」が載っている『つむぎの糸』を入手する前に、宮尾さんが書いた「豪快、土佐雑煮」という短い文章を読んでいました。それは、「辻留」の辻嘉一さんとの対談集『土佐の味・京の味』(中公文庫)に入っていて、潮江かぶは次のように書かれています。
……ただし、素材についてはわりあいに厳選する習慣で、餅はともかく、菜っぱは潮江地区だけにできる潮江かぶを用い、またダシは絶対に清流鏡川でとれたハゼでなければならないのである。……
潮江地区は熊澤さんの地元です。そこで、宮尾さんが「潮江地区だけでできる」という「潮江かぶ」を探し始めました。が、だれに聞いても返ってくるのは「昔あったよね」という答ばかり。まわりで栽培している人はすでにおらず、知り合いやタネ屋さんに聞いても見つからなかったといいます。それでも探し続けること35年、諦めかけた2014年の夏のある日、「潮江菜の種をもっている。栽培をまかせたい」というメールが届きます。メールの主は、高知工科大学の竹田順一さん。潮江菜のタネは50種類のタネとともに、、竹田順一さんの父、竹田功さんが保存していました。⇒竹田功さんが土佐在来野菜のタネを調査・収集した話はこちらをごらんください。「自分は潮江菜に選ばれたのかもしれない」と語る熊澤さん。いま、そのタネからみごとな潮江菜が育ち、50種類のタネのコレクション「牧野野菜」を代表する作物になっています。
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