大江戸味ごよみ 7月2日(火)まくわうり
筑摩書房刊の日めくりカレンダー『大江戸味ごよみ2019』に、伝統野菜プロジェクトとして書いたコラム。7月2日(火)のテーマは「まくわうり」です。
いま東京で作られる伝統のまくわうりには金銀あるが、比べると甘いのは果皮が黄色い「金まくわ」のほう。江戸期に、特産地・美濃国真桑村から幕府の御用畑(府中是政村 現・府中市)に導入された。成子村(現・西新宿)の百姓が将軍家に毎年献上して有名になった「鳴子うり」も金まくわ。川柳に「風呂敷をとくと駆け出す真桑瓜」。冷やすとなおうまく「水桶へ投げ込む瓜のひょいと立ち」。
まくわうりはアフリカ原産のメロンが、インドまたは中国で分化したものとされ、日本へも弥生時代にはすでに入っていたといいます。『万葉集』の山上憶良の歌「瓜食めば子ども思ほゆ…」の「瓜」は、まくわうり。瓜といえばまくわうりで、当時は重要な食べものでした。
銀座千疋屋二代目社長の齋藤義政氏が著した『くだもの百科』(初版1962年)、「うり」の項の最初に登場するのが、「まくわうり」です。そのなかでとても印象的な部分を引用します。
----まくわ瓜が好きだった時代までの、吾々の味覚は確かだったが、近年になっての日本人の瓜に対する味覚は一体どうしたものだろうか。甘さへの執念が強すぎて、甘くさえあれば、瓜の味なぞどうでもいいことになってしまった。日本人の味覚は相当なものだが、瓜に関する限りでは外国人より劣ってしまった。
----略----日本にはメロンや瓜の甘いのはあるがうまいのはない。出来ないのではない。売れないのだ。お好みが脱線しているらしい。
瓜類は総じて、種子と種子を継いでいるひものような柔らかい部分に真の味が潜んでいる。この紐をしゃぶる方が、ほんとうに瓜の好きなお方だが、この頃の瓜はだんだん紐の味が悪くなってしまった。----
なるほど「瓜の真の味は紐の部分に潜んでいる」のですか。確かに味がありますね。これからは気を引き締めていただきます。
「吾々の味覚は確かだった」という「まくわうりが好きだった時代」とはいつ頃のことでしょう。約60年前に「甘くさえあれば…」と指摘された傾向はますます進み、果物や野菜の名前に「甘」をつけるネーミングが「すばらしい!」といわれる時代になってしまいました。
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